家族でりんご園を営むやましげりんごの木村律子さん。
写真は恥ずかしがり屋でちょっと隠れてしまっていますが、父から引き継いだりんご園を30年以上も続けてきた芯が強い津軽のお母さんです。
りんご園を次の世代まで続けていくこと、そのバトンを次に渡すまで、美味しいりんごを作り続けるという使命感を持った律子さんの想いを是非ともご覧ください。
やましげりんご 木村律子(きむらりつこ)
生まれも育ちも旧藤崎町。父が他界したことをきっかけにりんご農家に。
恋空、つがる、あかね、トキ、ひろさきふじ、シナノスイート、ぐんま名月、ふじ、アルプス乙女等様々な品種を栽培している。
現在は律子さんの旦那さん、娘さん、親戚の方と、忙しい時期はアルバイトの方々の力を借りながら切り盛りをしている。
私がりんご農家を継ぐ。
ー律子さんの経歴を教えてください。
生まれも育ちも旧藤崎町です。
私が41歳の時に、父が急死しました。
それまでりんごは父と母だけで育てていたため、当時は未経験だったのですが、りんご農家を継ぐ決心をしました。
そこから、一心にりんごを作り続けてきましたが、気が付いたら73歳になっていました。
ーりんご農家になったのはお父様がなくなったことがきっかけだったのですね。
そうです。もともとこのりんご園は、父である木村繁造が立ち上げて、父と母でりんごを作っていました。
父が亡くなる前は、春から秋まではりんご農家、冬はりんごを県外に販売する仕事をしていたのですが、亡くなった後は販売の仕事はやめ、りんご農家を私が継ぐことにしたんです。
ー販売の仕事のように、りんご農家をやらないという選択肢はなかったのですか。
はい。父が大事に育ててきたりんご園を無くすという選択肢はなかったですね。
私は未経験ですし、夫は会社勤めをしていたので、周りからはりんご園を手放すのはしょうがないと思われていたかもしれません。
ですが、父の遺したりんご園を守っていかなければいけないという使命感で当時はいっぱいでした。
”やましげ”を絶えさせたくない。
ーやましげりんごという屋号もお父様から引き継いだものですか。
屋号をやましげりんごしたのは最近です。
実は今りんごの他に赤菊芋とピーマンも育てているのですが、ピーマンの加工品としてピーマンみそとピーマンのドレッシングを開発し、販売もしています。
この加工品の開発は藤崎町のふじさき産品という取組の一環なのですが、専門家の方から屋号があったほうがいいよとアドバイスを受けました。
屋号について家族で話し合ったところ、息子から「やましげ」を使うのはどうかと提案がありました。
息子が「おじいちゃんが生きているときに電話がかかってくると、いつも”やましげ”ですと言っていた。今ここでりんごを作っていられるのはおじいちゃんがいたから。自分の子、孫の世代になったとき、おじいちゃんの存在を知っている人はいなくなるけど、名前を残すことで考えるきっかけになる。自分たちの原点を忘れないでほしい。”やましげ”を次世代に繋げていきたい」と。
最終的に、父が使っていた”やましげ”という屋号に、父が私たちが人生をかけて作ってきた“りんご”という言葉をつなげて、屋号を“やましげりんご”に決めました。
ー感動するお話ですね。やましげりんごとしての今後の夢を教えてください。
農家は大変です。
私は未経験で継いだので、周りのりんご農家の方々に助けてもらいながら家族と共に続けることができました。
りんご園を父から引継ぎ、私が守ってきましたが、自分の後は、子供に続き、孫やひ孫以降の世代までいつまでも続いてほしいと願っています。
本当は息子や娘にバトンを渡したいと思いますが、それが叶わなくても、このりんご園を続けていってくれる方にバトンを渡したいですね。
やっぱり自分が我が子のように育てたりんごの木を切ってしまうのは寂しいので、若い人にこの場所でりんご園を続けてほしいと思っています。
りんごは毎年毎年、同じりんごにはならないし、私も30年以上りんごを作ってきましたが、今でも勉強することが尽きず楽しいです。
本には育て方は書いていますが、それが正しいかどうかはりんごにしかわからないです。
毎年「おいしくなれ、おいしくなれ」と我が子のようにかわいがって育てています。
藤崎町のりんごのイメージを背負って。
ーりんごを栽培する際のこだわりを教えてください。
土づくりは特にこだわっています。
草生栽培や堆肥利用はもちろんのこと、土壌分析・土壌診断をして、その結果を見ながら足りない肥料分を補うようにしています。
私たち人間も、鉄分が足りないときは鉄分を摂取するためにサプリメントを飲んだり、病気になったときはお医者さんから薬を処方してもらいますが、りんごの木も人間と一緒で生きているため、必要なものをきちんと確認し、補うようにしています。
他には、農家はこの地球に生かされているので、少しでも地球環境に負荷を与えないようにしなければならないとも考え、剪定枝から炭を作る取り組みを始めました。炭を作ることで二酸化炭素の放出量が減り、さらにそれを畑に撒くことで、土壌改良にもなる。環境にもやさしく土づくりにもなる。微力ながら地球への恩返しです。
また、フードロスの削減のためにも取り組んでいます。
りんごは、花が咲いてから収穫までの半年の間に、多くの風雨、猛烈な直射日光にさらされるなど、過酷な環境を過ごします。 そういった過酷な環境を乗り越えて、収穫を迎えるりんごはまさに奇跡です。更に傷がなく、ピカピカの真っ赤なりんごは本当に奇跡中の奇跡です。
そうしたりんごを作れるよう頑張ってはいますが、どうしても出てしまうのが規格外品です。
規格外のりんごでも、私たちが愛情込めて育てた我が子です。
ピカピカのりんごと同じく価値を持ってもらいたいと考え、規格外のりんごからジュースを作ったりジャムを作ったり、フードロスに向けてチャレンジしています。
ー律子さんが農業をやっていて喜びを感じる瞬間をおしえてください。
手塩にかけたりんごだからこそ、食べていただき、「美味しい」という言葉を聞けることが嬉しいですね。
あとは収穫の時に楽しみがあります。
りんごの出来がよいこともあれば、反省することもあります。
箱にりんごを詰めていくときに、傷が多かったり、形が変だったりするリンゴをありますが、来年はどのように減らしていこうかなと、考えて勉強していくのが楽しいですね。
現在、直接消費者への販売もしており、顔がえて直接「美味しい」を聞ける喜びはもちろんありますが、その喜びの裏でプレッシャーも感じながらやっています。
お届けしたりんごが美味しいと思ったら”藤崎町のりんごが美味しい”と思ってくれると思うし、反対に美味しくなかったら”藤崎町のりんごが美味しくない”と思われてしまうので、藤崎町のイメージを背負っているつもりでやっています。
りんごの販売を通じ、藤崎町のりんごを美味しいと思ってくれて、藤崎町ってどんな町?と一人でも多くの方に興味を持ってもらえることが理想ですね。
ー最後にやましげりんごのりんごを食べてくれる方にメッセージをお願いします。
りんごおいしくなるように一生懸命愛情込めてつくってます。
美味しいので食べてみて下さい!