青森県藤崎町で育った人にはお馴染の「落ちないりんご」。
受験シーズンに中学校3年生に送られることが恒例となっていますが、このりんごは実は平成3年頃から始まりました。
その当時一体なにがあったのか、そしてこだわり抜いた落ちないりんごの商品について社長の安原さんに伺います。
有限会社落ちないりんご 安原義太郎(やすはらよしたろう)
収穫間近に青森を襲った「りんご台風」
ー落ちないりんごの由来を教えてください。
平成3年9月28日早朝、台風19号が青森県を襲いました。
猛烈な風が吹き、建物等にも甚大な被害をもたらしました。
収穫期を迎えた、あと少しで収穫だったりんごはほぼ壊滅状態となり、約40万トンが収穫を迎えずに落ちてしまいました。
被害総額は741億円。この台風は「りんご台風」という呼び名で、今でも語り継がれています。
冬の剪定から始まり、1年かけて大事に育てたりんごがほとんど台風で地面に落下しました。
今でもその光景は鮮明に記憶に残っていて、思い出すと本当に悲しい気持ちになります。
ですが、風速53.9メートル(大抵の木造家屋が倒れ、樹木は根こそぎになるレベル)という強風に耐えたりんごがわずかですが残っていて、このわずかなりんごが悲しみに打ちひしがれた私たちに勇気をくれました。
この生き延びたりんごを「落ちないりんご」として、“受験生の合格祈願の縁起物に”と、藤崎町のりんご農家が協力してアイデアを出し合い、平成4年に全国の神社で販売しました。
この出来事がきっかけで、全国のりんごが好きな方々と繋がりができ、平成5年に有限会社落ちないりんごを設立しました。
現在藤崎町のりんご農家15名が社員として参加しています。
令和3年現在で約30年になります。
ーりんごの全国への提供を30年も続けているんですね。
そうですね。りんごや加工品の販売に加えて、平成4年から藤崎町の中学生の受験生には、「落ちないりんご」というメッセージを入れたりんごを寄贈しています。
藤崎町の受験生を応援したいという想いからはじめましたが、実際に受験生から
「落ちないりんごのおかげで合格しました。」「勇気がでました」とお礼をいただきます。
そのお礼の言葉のおかげで、「また、来年も美味しい落ちないりんごを作って、受験生を応援したい」というモチベーションで、今まで続けてこられました。
とことん”ふじりんご”にこだわる。
ー「落ちないりんご」のりんごやジュースはふじにこだわっていると聞きました。
“ふじりんご発祥の地”の藤崎町の農家が集まったからこそのこだわりで、取り扱うりんごは、加工品の原料のりんごも含めて、全てふじのりんごです。
通常、一般的なりんごジュースなどの加工品は、見た目に傷がるものや、落下したりんごを使用し、更に複数の品種をブレンドするものが多いですが、私たちのリンゴジュースは全て、“もぎり”の“完熟したふじのりんご”の一品種で絞っています。
(もぎりとはりんご木から、採るという意味)
実は、ふじのりんごだけを使用するりんごジュースはコストがかかりすぎるということで、どこのリンゴジュースを加工する業者も避けるのですが、私たちは”ふじのりんご”にこだわり、そして、消費者に納得できる自信のあるものを提供したいという思いで”完熟したふじのりんご”のみを使用した、リンゴジュースを販売しています。
ー熱い思いを持った生産者の方々ですね。
はい。皆ここ藤崎町でずっとりんごを生産し、多くの方に「美味しいりんごを食べてもらいたい」というのを、第一に考えてりんごを栽培しています。
そのためには、仲間同士で協力し、美味しいりんごを作る上で必要な情報を共有することは勿論、一人一人がおいしいリンゴを届けるために手を抜かず、特選のいいものをお客様にという想いで切磋琢磨してりんごを栽培しています。
だからこそ、そんな想いで栽培しているりんごが秋になって実をつける時期は本当に楽しみですね。
というのも、実はこれまで、私自身、りんご作りは50回以上やってきましたが、毎年毎年出来上がるりんごが違うので、本当に、この歳になっても常に勉強です。
幾つになっても、そして、何回りんごを作っても、同じようなりんごが出来上がりません。それが、毎年毎年、楽しいですね。
りんご作りを後世へつなぐ。
ー藤崎町では若いりんご農家さんが頑張っていますね。
はい、昔からここ藤崎町の土壌はとてもりんごに適していると言われています。
全国的に高齢化が課題となっていますが、藤崎町でも高齢化により畑を手放す人が問題になっています。
それでも、比較的その他の地域に比べると、若い人がりんご農家をやっている方だと思いますね。
幸いなことにこの藤崎町の若手農家たちは、自分のりんごづくりことだけではなく、自分たちの後の代に続けることを考えている人が多いですね。
りんごづくりに対しても熱心に勉強し、新しいことにチャレンジしている姿は素晴らしいですね。
りんご農家は、自分の畑で一人でりんごづくりをするように思いますが、実際には、一人だけでりんご農家をするのは難しいと思います。
地域に仲間を作り、一緒にりんごづくりを勉強し、切磋琢磨してりんごを作っていく、そういう地域のやり方が、これから若い人がりんご農家を続けるためにも、そして新しい就農者の為にも重要だと思います。
−みなさん、りんご作りに対して日々熱心に取り組まれているんですね。
そうですね、私たち“落ちないりんご”は、これまで長年リピートの方から支えられています。リピートの方は皆さん、一度食べたら他のりんごが食べられないということで、20年近く毎年りんごを買っていただける方もいます。
そのようなお客様から、「今年も美味しかったです」という言葉をいただくことが何よりも嬉しいです。
それも、社員がりんごを向き合って熱心に日々努力し、真心を持って作っているからです。
これからも「落ちないりんご」の社員一同、落ちないりんごを愛してくれる全国の消費者の方の期待に答えられるよう、日々努力し、おいしい藤崎町のりんごを提供していきたいですね。